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PBCにて活動しているうちのPCたちの掃き溜め。(まんま)
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(ショート)『玲瓏なるは』


遊廓やら娼館やら。華やかの裏側とか好き。
故にそっちのPCも多いけど稼働率は超低い(中の人の実力不足←

 

――楼、と鳴けばお前さまは止まってくれるのか。





どうぞ右や左の旦那さま、貴顕紳士や名も高きお殿さま、異国の風情真新しきはどなたでしょう。ちょいと足を向かせて下しゃんせ、お耳を貸して下しゃんせ。

手招き妖艶笑えば白肌の、夜も可憐な月化粧。魅入られ華に引き寄せられて、しがなく無力の木偶にどうか、どうかのお情けを。籠の檻より手の平ひらり、伸ばしてまねく一夜の主を待つはしがない売女に御座います。たぁんと身飾り着飾って、きらきら輝く羽衣麗し見えますか。されどお前さん、知りはしない遊廓女の姿をほんの少しでも。甚振られ毟られ、千切れて穴だらけの鎖付き、そんな廓の女の傷み、考えたことなど、

嗚呼、嗚呼。

同情の涙などはいりゃせんよ。
旦那や旦那、直ぐに乾いてつまらぬ涙よりも、一文にもなれぬ憂いよりも、くれるならばどうぞ一時の夢を。お代はひとつ、他には何も望みやせん。強情な淫売女の涙、どうかお買い上げを。要らぬというのに苦いというのに邪魔だと、いくら言うても零れる涙。旦那さまが掬って下さるならば、どうか探してくださいましな。



***






「 旦那。  …だんな、 」

旦那さま。何を迷うていらっしゃる。 桜の花が芽吹く前、未だうずらや寒い夜。木の根元より響く悲鳴も固唾を呑んで、お前さまには似合わぬよ。あちきの涙の代わりにと、雲が雨を流すなら。見かけばかりの華に哀れとお思いで。

ほぅら、ほら。

動乱の世も今はほんの僅か。片時の頭の隅にでも追いやって、このときより忘りゃ良い。諍いばかりの世の末で、胡蝶の夢に溺れる癒しを恋をと求める男共が訪れる花街の一角。遊廓座敷もまた其の奥で、欲の捌け口言い訳に、喰らうまことはどちらの方か。

腕を回して旦那さま、此の細い背に爪喰らえ。

「だんな、あちきを。  早う、」

夜に咲く花は何という。真っ暗な夜、朧月に芽吹いた花よ。かたい、硬い蕾に身を縮め。春の訪れ未だ来ぬと言ふなれば、どれほど耐え難くとも待ち焦がれ。
なんて嗚呼、世迷言は要りやせん。此の身、此の華誰の為にも向けやせん。

「お、おぉ。こちらに、近う来て其の顔を見せておくれ」

「嗚、呼 ……だんな、」

「そうかそうか。お前はほんに、かわゆいのぉ」

だんな、旦那。
一夜の夢を見果てぬよう。

するりと白い手を差し出して、男は浅黒の不恰好な指で力も強く掴んだ。酒の臭いを息と共に吐き出して、冷たい白肌に掛れば不快を覚える。嫌悪も奥底も抑え込み、うっとり頬染め見上げた彼の者の顔。煙管でも吸い飽きたか黄ばんだ歯と、渇いた分厚い唇。汗も纏わりついた脂ばかりの醜い頬、どれを挙げてもおぞましい。引き寄せられては遊女のか細い身体がふるり、震えた。男は何を勘違いしているのか、抱きしめた女が息も出来なくなれば、満足げに下世話な笑みをにやつかせる。

肩を押されて組み敷かれた布団の柔らぐ痛みも、これから訪れる苦痛に比べれば塵にも等しい。

さあ想うがままに動けや構わぬ。
小首傾げて頭を横に、甘い声漏らせば其れが合図なのか。男は女の骨が浮き出た首筋、鎖骨に粘つく唾液を垂らす。香が鼻つく肌に、男の歯が噛み付けば小さな声が疼くよに啼いた。
荒々しく女の躰に手を這わせる男の頭には、もはや遠慮も迷いも端から有りゃせんと。分かっていようとも、知っているとも女は酷く冷めた眼を天井に向けて。理性など初めからあったのか、本能のままに濁り息をかけては男が蠢く。虫は、這い蹲る気持ち悪さも忘れられぬ。

「 ァ、 あ」

裏腹に冷め行く己の身体、熱く乱される彼の肌とは間逆に、獣の眼などはとうに見飽きたと言い捨てられたならばどれほど楽か。浅ましい男の愚かな欲望満たす為、悦び頬をゆるめて潤んだ瞳。けれど涙などは流すものか。見せて、魅せりゃ演じるだけで。まだあちきは穢れやせんと、物の怪には成るものか、足掻いたのは単なる意地。
馬鹿げた末路に、抱かれることを悦ぶ幾人もの同士。お前たちのよに成りゃせんよ。

まだ。己は大丈夫。


「……だ、んな  、 」

濡らして、息だけで掠れた声で呼べば男は笑む。声を抑えて、堪えて、我慢も出来ずに零れる小さな呻きが男の傲慢な自尊心を高める。

なんて醜い顔、醜い躰、愚かな生き物。

あちきは決して、お前たちのよには染まりやせん。

いつまでも冷たい躰に喰らいつく男に冷気を滲む笑み浮かべれば、男は嬉しそうに汚れも無い肉を愛そうと云う。濃密な薫りに酔わせて狂わす、人喰いの女に夢中になれば、それだけであちきは生き延びる。お前たちが醜い姿、晒すほどに、狂いきった世界で己は正常であると信じられる。


『 さあ、 喰ろうてやる。 』


か細く吐かれた言の葉など、遊女の身体に貪りついた男の耳には届かぬ様で。
どうぞ、鳴くのはお前さまよ。



花は散らぬ、まだ。まだ、

posted by 氷水 | 18:29 | 散文 | comments(0) | trackbacks(0) |
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